【意味】空手に先手なし(※1)
「空手に先手なし」とは絶対に自分から先に手を出してはならないという教えですが、空手道の奥義としては競技試合や稽古の事ではなく、実戦において手足を全く出さずに(武力を使わず)喧嘩や争い事(戦争)を平和に治めて欲しいという強い願いが込められています。
その心を理解できるならば、稽古において試合や自由組手がいけないという事はありません(空手の稽古を喧嘩や争い事の目的に絶対にしない)。けれども、多くの人はそれを理解する事は難しいでしょう。そのため、二度と争い事を起こさないように、便宜的に稽古においても平和、文化及び教育を目的に演武(型)のみとし、スポーツのように他人との優劣を競い合わず、競技試合及び自由組手は行わないという団体毎の決まり事、そして稽古方法の選択も、人道主義を重んじる武道の観点からは決して間違えではありません。かつて、船越義珍が戦前に所属していました伝統武道の総本山であった京都の大日本武徳会及び松濤会は、戦後に再建してから現在に至っても悠久の時間の中で、自由組手や競技試合を実施せずに型演武のみとし、伝統武道の崇高な精神と技を次世代を担う青年たちに伝え続けています。船越義珍は個人や団体の見解というよりも沖縄空手だけでなく、戦場で活かされてきた剣術を中心とした日本武道の先人たちから学んだ教えとして、平和の尊さを次世代を担う青年たちに二度と戦争と言う過ちを起こさないように教えているだけなのです。
船越義珍の空手理念は手にも心にも剣(拳)のない境地。大きな心ですべての人を包み込む。そして、稽古の目的を人間同士の争いの元である優劣の判断とはせず、他人との比較により一人の落ちこぼれも作らないように、私たちの異なる存在をお互いの個性(肌の色、人種、性別、文化の違いなど)として温かく認め合い、皆で良い社会を作るために人を殺さず平和を求める心にこそ、本当に私達が空手道から学ぶべき大切な教えがあるのです。
【引用先】琉球新報1994年1月22日付
空手に先手なしの理念は一見敗北思想(臆病者の理念)に見られるが、人類と人間尊重の立場を築き上げた琉球の歴史から私は不動の信念と自信をもってそれが世界人類の平和と人間の命を尊重する慈悲の心・礎であり、空手に先手なしの哲理を守るのが・・空手のメッカたる沖縄が守らなければならない英知な思想であることを私は確信する。−長嶺将真ー
【推薦図書】
〇空手道教範(復刻版)(※2)
著者 船越義珍 発行所 榕樹書林(解説:宮城篤正)2012年
(昭和10年(1935年)7月19日 昭和天皇陛下へ献上された貴重な歴史書籍)
〇空手道一路 著者 船越義珍 榕樹書林
〇義珍の拳(著者 今野敏)発行所 集英社